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1. はじめに:指導監査で見られるIT関連事項
令和7年度より、関東信越厚生局の個別指導・新規個別指導において、事前提出書類に医療情報システムの概況等<様式7>が追加され、さらに保険薬局の概要<様式1>にも調剤録に関する記載項目が追加されました。
医科の内容から作成されたと思われる「電子カルテ」「診療」といった項目から、薬局のIT環境に関する深い知識が求められていることがうかがえます。しかしご安心ください。これらの項目は、「電子薬歴」に関する記載を意図していると解釈して問題ありません。
今回は、特に多くの薬局が戸惑うであろう<様式1>の調剤録記載項目に焦点を当て、その内容と具体的な記載方法を解説します。
2. 【様式1】保険薬局の概要:調剤録記載項目を深掘り
以下に、個別指導で提出が求められる様式1の記載項目を一つずつ解説します。
2-1. 電子薬歴システムの基本情報
(1)電子カルテの導入:・無 ・有( 年 月 日導入)
電子薬歴システムを導入しているかどうかを回答します。「有」の場合、導入年月日を記載します。導入日が不明な場合は、電子薬歴のシステムベンダーに問い合わせれば確認できます。
(2)操作機器の台数:__台 設置場所:
電子薬歴を操作する機器(パソコン、タブレット等)の合計台数を記入し、設置場所を記載します。
- 台数: パソコン1台とタブレット3台があれば、合計4台と記入。
- 設置場所:
- 据え置き型: 投薬カウンターなど、具体的な場所を記載。
- 持ち運び型: 調剤室、投薬カウンター、薬局内など、設置場所をより広く表現します。タブレットの充電場所を定位置と考えることもできます。
(3)システムベンダー:名称:
電子薬歴システムを提供しているベンダー名をそのまま記入します。
2-2. 運用とアクセス権限に関する項目
(4)運用管理規定:・定めていない ・定めている( 年 月 日規定)
電子薬歴に関する運用管理規定を薬局で定めているかを問う項目です。日本薬剤師会のホームページや、各都道府県薬剤師会のサイトにテンプレートが公開されています。また、電子薬歴ベンダーが導入時に提供している場合もあります。まずは自薬局に規定があるか確認し、なければ速やかに整備しましょう。
(5)アクセス権限:・無制限( ) ・一部制限( ) ・閲覧のみ( )
電子薬歴システムのアカウント権限設定を回答します。
- 無制限: 全ユーザーが制限なく全ての操作ができる状態。
- 一部制限: 管理薬剤師は全ての操作ができるが、勤務薬剤師はマスターメンテナンスができない、といった制限がある場合。
- 閲覧のみ: 薬歴の記入権限がなく、閲覧のみ可能なユーザーがいる場合。
カッコ内にどのような文言を記載すべきか、明確な指示はありません。該当する権限のユーザー種別(例:無制限(管理者)、一部制限(勤務薬剤師))を補足的に記入すると良いでしょう。
(6)ID付与:・個別 ・共用 ・一部共用
電子薬歴システムのIDがどのように付与されているかを回答します。
- 個別: 薬剤師個人ごとにアカウントが発行されている場合。
- 共用: 複数人が共通のIDで利用している場合。
- 一部共用: 管理薬剤師は個別ID、非常勤薬剤師は共用ID、といった混在ケース。
電子薬歴は、薬剤師個人がアカウントを持つことが原則です。 業務の性質上、共用IDは推奨されません。
(7)パスワードの管理:__桁・自主的に変更 ・定期的に変更( 月)・その他
この項目は、「令和7年度版サイバーセキュリティ対策チェックリスト」にも通じる内容です。
- パスワード要件: 英数字・記号を混在させた8文字以上が求められます。
- 変更頻度:
- 8文字以上13文字未満の場合は、「自主的に変更」または「定期的に変更」にマルをつけます。
- 13文字以上の場合は、定期的な変更は不要とされています。
運用管理規定にパスワードの管理方法を明記し、全員がそのルールに従って運用していることが重要です。
2-3. 記録の確定とデータ保存
(8)追記、書換、削除:・可能(更新履歴有・更新履歴無) ・不可能
一度確定した薬歴を修正する機能の有無を問う項目です。修正機能がある場合は、その履歴が残るかどうかも確認します。
- 可能(更新履歴有): 追記・書換・削除ができ、その履歴がシステムに残る。
- 可能(更新履歴無): 追記・書換・削除はできるが、履歴が残らない。
- 不可能: 確定後は修正できない。
導入している電子薬歴システムがどのような機能を持つか、事前に確認しておきましょう。
(9)記録の確定処理:・マニュアル確定 ・自動確定( 時間後・ 日後)
薬歴がどのように確定されるかを回答します。確定ボタンを押して確定される場合は「マニュアル確定」、一定時間後に自動で確定される場合は「自動確定」を選択します。
(10)データの保存:・ホストコンピュータ ・バックアップ( )
電子薬歴のデータがどこに保存されているかを問う項目です。ほとんどの場合、ベンダーのクラウド環境に保存されているため「ホストコンピュータ」を選択することになります。「バックアップ」のみにデータがある状態は考えられません。
(11)記載の時期:・診療の都度 ・後刻
薬歴の記載タイミングを回答します。通常、服薬指導直後に記入するのであれば「診療の都度」を選択します。何らかの事情で後から記入する場合は「後刻」が該当します。
3. まとめ:指導監査に備え、今すぐできること
今回の様式1の変更は、個別指導においても薬局における医療情報システムの適切な運用・管理が重要視されていることの表れです。
- 様式1の項目に正確に回答できる体制を整える。
- 電子薬歴の運用管理規定を整備・確認する。
- パスワード管理など、日常のセキュリティ運用を再確認する。
といった事前準備が、スムーズな指導対応につながります。次回は、より専門的な内容が記載されている<様式7>の解説を予定しています。
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